DT07-01 ➡ 第1の秘密――ウォール街にプレゼントは落ちていない
人生という大きなゲームにおいて確実なものはそう多くない。 まず、頭に浮かぶのは死と税金ぐらいであろうか。 もう1つ確実なものとしては変化が挙げられるだろう。
一方、トレーディングという小さなゲームにおいて唯一確実なのは「ウォール街にプレゼントは落ちていない」ということだ。
ある取引で運がよかったと感じることがあったとしよう。 しかし、通常は時間の経過とともに、当初幸運と感じたものが実は不運であることが明らかになるのである。
例えば、激しく動いているNASDAQで、ほとんどのマーケット・メーカーがオファー(売り注文)を出さなくなった時にポジションをとろうとしているトレーダーがいたとしよう。
そして、オファーを出すマーケット・メーカーが1社か2社出てきた時点で買い注文が執行されたとする。 この時点で、そのトレーダーは本当のところはそのポジションをとりたくなかったこと、そう、とるべきではなかったことが明らかになる。
何かをもらったと感じる時には、何かを押し付けられた、それも自分がほしくない何かを押し付けられた可能性が高い。 これはプレゼントをもらうことに似ている。
そして、極めて明快な真実は、ウォール街では誰もただで何かをあげるなどということはあり得ない、ということである。
確かに、最も優れたトレーダーでも失敗することはある。 そして、常に悪いタイミングで買い物をする無関心な人間もいる。 しかし、これらの事象をものにすることがトレーディング技術なのである。
これはプレゼントをもらうこととは全く異なる。プレゼントをもらうことは、幸運、つまり自分の実力以上の何かを得ることを意味しており、トレーダーは十分に注意しなければならない。
換言すれば、利益や収益機会はマーケットから奪うものであり、与えられるものではないのである。
誰かがくれるものとは、火傷をしたくなければ、すぐに他の誰かに渡さなければならないホット・ポテトのようなものである。
これは必ずしも気分のよい行動ではないかもしれないが、ウォール街における適者生存という法則は、最も賢く、最も鋭敏な者が生き残るというものであり、最も幸運な者が生き残るというものではないのだ。
望むものを奪い取り、プレゼントは拒絶する。 ウォール街にはプレゼントなどそもそも存在しないのである。
POINT
自分の実力以上の何かを得たのならば、それは罠の可能性が高い。 話がうますぎると感じる時には、常に懐疑的になるべきである。 警告の意味で、以下に押しつけられた「プレゼント」の例をいくつか示しておく。
1)現在値よりも低い水準での買い指値が執行された場合。 これは誰かがどうしてもその銘柄を売りたくて、現在値よりも低い水準でも構わず売ろうとしていることを意味している。
ほとんどの初心者はこれを喜ぶのであるが、熟練したトレーダーは即座に懐疑的になる。 問題は、その誰かが自分の知らない何かを知っている可能性があるということだ。
これが起こった時には、十分に警戒し、何らかのトラブルの兆候が見えた瞬間に売却できるようにしておくことだ。
2)現在値よりも高い水準での売り指値が執行された場合。 前のシナリオとは逆のパターンである。 これは誰かがどうしてもその銘柄を買いたくて、現在値よりも高い水準でも進んで買おうとしていることを意味している。
現在値よりも高い水準での買いを厭わないのは、わけがわかっていない初心者であるか、強欲に溺れたトレーダーである可能性は十分にある。 しかし、真のプロである時もある。
プロが現在値近辺での売り玉をすべて買い上げようとしているのならば、現在値よりも高い水準でも進んで買っていく。 これはその銘柄が急騰する可能性が高いことを意味する。
それがプロのポジション・テイクによるものである場合には、果敢に買い戻す用意をしておくべきである。
3)マーケット・メーカーが1社だけ小口の売り玉でオファーを提示しているだけなのに、瞬間的に自分の買い注文が執行されてしまう場合。
これは見かけは強いものの、実は、全く強いものではないことを意味する。 具体的な例で考えてみよう。 マーケットメーカー4社が40ドルでビッドを出している(買いたがっている)。
そして、オファーには1社のマーケットメーカーが40.25ドルで1000株を出している。 一見したところ、4社が40ドルで買おうとしているのに対して売りは1社だけであり、相場つきは強そうである。
しかし、40.25ドルでの出来高は大きいにもかかわらず、40.25ドルのオファーは変わらない。 これはそのマーケットメーカーがオファーを「何度も出し直している」ことを意味する。
40.25ドルでの攻防の最中に、1000株40.25ドルで買いの注文を出したとしよう。 それは瞬間的に執行される。
初心者は40.25ドルで買えたことを幸運に思うかもしれないが、熟練したトレーダーは即座に懐疑的になる。
懐疑的になった熟練したトレーダーは即刻、40.25ドル、あるいは少し下の40ドル3/16でオファーを出すのである。
当然、このほかにもさまざまなシナリオが考えられるが、ポイントは理解していただけたと思う。
DT07-02 ➡ 第2の秘密―誰かが自分の反対サイドにいて、彼らは友達ではない
私は、取引をするたびに誰かが自分の反対サイドにいることを認識することが大切だと信じている。 自分が買っている時には誰かが自分に売っているのである。
重要なことは、「どちらがより賢いのか」ということである。 自分と反対サイドにいる者のいずれが正しいのか。
あまりにも多くのトレーダーや投資家が、自分たちが買ったり売ったりする時には、株券が山と積まれた、どこか宙にある倉庫と取引しているかのように行動している。
この曖昧で間違った概念はトレーディングにおける最も重要な要素を無視するものであり、不適切な精神状態を助長するものである。
トレーディングは常に戦争とみなされなければならない。 それは自分自身との戦いでもあるが、他のマーケット参加者との戦いでもある。
トレーダーは、すべての取引において他のトレーダーや投資家の見解や信念と戦っているということを認識しなければならない。 そして、彼らのほうが正しい可能性は十分にある。
自分が買うことができるのは誰かがそれを売りたがっているからだということを理解することが肝要だ。 逆に、特定の価格で売ることができるのは誰かがその価格で進んで買おうとしているからなのである。
間違う回数よりも正しい回数のほうが多い集団に属するためには、まず、成功するトレーディングとは何かを完全に理解する必要がある。
こんな簡単なことを、多くのトレーダーが知らないのは驚きである。 私は、のべ何千人ものセミナー参加者に「成功するトレーディングとは何「か?」という質問を投げかけてきた。
そのたびに、「安く買って高く売ることである」とか、「負けよりも勝ちが多いことである」といった典型的な答えが返ってくる。
これらの答えにもわずかながら真実が含まれているが、非常に曖昧であることに加え、これまでに述べてきた個人的な要素を排除していることから、真の回答にはほど遠いのである。
正しい心構えでトレーディングというゲームに臨むためには、この単純な問いに対する答えを用意しておかなければならない。 議論を深める前に、今ここで、正しい答えを披露することにしよう。
成功するトレーディングとは、「商品(株式)を安過ぎる値段で売りに出している者から買い、それを、高過ぎる値段であると自分が知っている時に誰か他人に売りつける」ことである。
このコメントにはトレーディングを極めるために最も重要な鍵が含まれており、先に進む前に何度か読み返してみてほしい。
これが正しく理解できれば、本質的に、成功するトレーディングとは、今手許にある商品の真の価値に全く気づいてない馬鹿者を探し出し、それを利用する技術だと認識することであろう。
これが成功するトレーディングの真の定義である。 これを念頭に置きながら取引に立ち向かうことができる者は、より深く鋭敏な見識をもってマーケットに臨むことができるのである。
成功するトレーディングに関するこれ以外の定義は、最も大事なポイントを外しているということだ。
勝つことができた取引はすべて、誰かが安く売り過ぎるか高く買い過ぎるかして貧乏くじを引き馬鹿をみているのである。
我々の目的は、読者や生徒がそういう馬鹿者にならないようにすることである。
POINT
いろいろな意味で究極のトレーダーは、「よきサマリア人」(新訳聖書に登場する、困っている人を助ける哀れみ深い人)の役割を演じるのである。
踏みにじられた者が苦しんでいる時に彼らから株を買うことによって彼らを救い、欲に満ちた者が株を買いたくてうずうずしている時に彼らに株を売ることによって彼らを満足させるのである。
ある意味で、究極のトレーダーは他者の苦痛を和らげ、欲を満たしてやる者なのである。
DT07-03 ➡ 第3の秘密――プロは希望を売り、初心者は希望を買う
マーケットに参加したばかりのトレーダーの多くは、そしてそれほど新参ではない者でも、十分な時間とマネーがあれば、近くの大規模な書店に行って、
トレーディングに関する書物を読み散らせば「何か」を見つけ出すことができると思っているようである。 その何かとは、聖
ホーリーグレイル
そう、それを使えばその使いよさと固有のロジックによって巨万の富を約束するような指標である。
他の者は、もしかしたら杯となる指標、次の取引で大きな鉱脈に当たるのではないかとか、場外ホームランになるのではないかとか、往来相場でトントンまで戻るのではないかといった希望を持つのである。
しかし、熟練したトレーダーは、ことマーケットに関しては希望は危険であることを知っている。
希望はそもそも人々をマーケットに惹き付けるものだが、マーケットでの成功ということに関しては、ほとんど役に立たない。
むしろ、マーケットでの成功をもたらすものは、安定的に利益を上げることができる要因が何であるかを見極める能力である。
つまり、希望とか欲望とか恐怖を投影させることなく、チャートに表れていることを読み取る能力だ。 他の価値のあるものと同様に、これは言うが易し、行うは難しである。
ここで求められる鋭敏さは、成熟と自立である。 換言すれば、自分自身とそこに見えている利益に集中するのではなく、取引の可能性に集中するのである。
それを成し遂げるためには、結論に至るまでにコツコツと事実をかき集める科学者の態度が必要である。
ここでいう事実とは、参入価格やストップロスの価格、目標株価を決定するための支持線や抵抗線、現状のトレンドの方向性や持続期間、直近の価格とそういった指標との関係などである。
それは「もしうまく行かなかったらどうするか」とか、「それだけの資金を失う用意はできているのか、もう少しポジションを小さくするべきか、
あるいは何もするべきではないのか」とか、「自分の戦略に従うだけの規律を自分に課すことができるか」といった、必ずしも気分のよいものではない質問を自らに投げかけることを要求するものでもある。
この何が重要なのかを見る過程が、十分な情報をもって取引できること、生き残れること、そして最も重要なことではあるが、最終的に勝者となることを可能とするのである。
時を経るごとに、この過程を迅速に行うことができるようになり、そして最終的には天性となるのである。
POINT
プロのトレーダーが「希望」という精神状態になることは少ない。 ありもしないものを望んでいると感じた時には自らが困難に直面していると認識し、即座にポジションを手仕舞う。
「希望」は初心者に特有の精神状態であり、彼らには知識と簡潔なトレーディング戦略が欠けているのである。
熟練したトレーダーは、希望を売るほうが希望を買うよりもはるかに収益性が高いことを知っている。 例えば、オプションは大雑把に言ってしまえば希望のゲームである。
その意味で、我々はオプション取引を貧乏人の競馬場と呼んでいる。 オプション取引における勝者はオプション(希望)の売り手であり、買い手ではないのである。
選択肢があるのならば、熟練したトレーダーは常に希望の買い手ではなく、売り手になる。 そのほうが利益が上がるからである。
DT07-04 ➡ 第4の秘密―ホームランは敗者のためにある
1998年に大リーグのホームラン記録を争ったスーパースターのマーク・マグワイアとサミーソーサは優れたトレーダーにはなれないだろう一熟練したトレーダーならわかっていることだ。
それは、大物、つまりホームランを狙うことが彼らの本能であり、それが骨の髄まで染み込んでいるからである。
野球ではそのアプローチは成功するかもしれないが、デイトレーディングの世界では機能しない。
プロのトレーダーは安定的にヒットを打てる打者なのだ。 彼らは、時折、二塁打を放つこともある。ついていれば、たまには三塁打もある。
一方、熟練したトレーダーは決しておいしいところ、つまり「一発」を狙いにいくことはない。 彼らは大量得点を狙わない。
大量点を狙うこと、ジャックポットを狙うことは、技術もなく、起死回生の大挽回で生き延びようとする敗者の行うことである。
デイトレーディングにおいてホームランを狙うことは自暴自棄の行動である。 後学のために言っておくと、知恵のある者は捨て鉢な行動をとらないものである。 この事例はあまりにも多い。
3連敗したり、3週間あるいは3ヵ月勝ちに恵まれず、苦汁にまみれるトレーダーは、あまりにも苦痛に耐え難く、自暴自棄になってくる。
株価はストップロスの水準に達するが、もう負けることはできないと覚悟を決めたトレーダーはストップロスを無視するのである。
あるいは、1ドルか2ドルの含み益を得たとしても、それでは到底、損益がトントンには戻らないので、売る決断ができない。
そこで、そのトレーダーは様子見に転じ、(保有銘柄が、彼がもっと利益を望んでいることを知ってでもいるかのように)結果的には破滅的な損失を受け入れざるを得なくなるまで株価は下落してしまうのである。
私はこうした悪循環に完全にとらわれてしまったトレーダーを何人か知っているが、精神的かつ経済的な破産に至るしかないカミカゼのような自己破壊的な途をたどっていることに彼らは気がついていない。
我々は熟練したトレーダーとして、マグワイアの心臓とピートローズの賢さ、ソーサの体力とロッド・カルーの精神力が必要なのである。
端的に言えば、シングル・ヒットを打つこと、つまり小さいが安定的な利益を得ることを極めなければならないのである。
それが正しくできれば、そのアプローチは時には大きな利益をもたらしてくれる。 ホームランである。
POINT
大勝は、通常、初心者の証である。 株式取引において大幅な利益を上げることを軽んじていいと言っているのではない。
しかし、熟練したトレーダーは、トレーディングでの成功が安定的に利益を上げることにかかっていることを知っている。
それはホームランを狙うよりもシングル・ヒットを狙うほうが達成しやすいのである。 これが熟練したトレーダーがホームラン狙いは初心者に任せて、自らは小幅ではあるが安定的な利益を狙っていく理由である。
考えてもみてほしい。 株式市場における究極の支配者はスペシャリストであり、マーケットメーカーなのである。
スペア・リーズケロッグやゴールドマン・サックスやメリルリンチといった企業はウォール街の名門であり、株式市場の巨人であり、彼らはこの世の中で最も収益性が高いのである。
彼らがAmazon.comで27ドル儲けようとか、AOLで14ドル儲けようとしたことが一瞬でもあるだろうか。 答えはノーである。 初心者だけがそういった取引を夢想するのだ。
それぞれの取引における、これらの勝者の唯一の目的は鞘取りである。 スプレッド(ビッドとオファーの差)をとることだ。
これらウォール街の支配者はバイ・アンド・ホールドのアプローチを推奨するが、NASDAQのレベルIIシステムは彼らがバイ・アンド・ホールドを実践してはいないことを明らかにしている。
彼らは恒常的に1/8ポイントや1/4ポイントにしのぎを削っており、それでいて彼らは誰よりも儲けているのだ。 実際、彼らはウォール街の神様みたいなものである。
最近、「短期トレーディングでは儲けることができない」と喧伝されることがあるが、彼らの行動をみれば、それが本当かどうかがわかるだろう。
DT07-05 ➡ 第5の秘密―チャートを作れば、大衆はそれに従う
一般的な人間は1日に6万回考えごとをするが、残念ながら、95パーセントの人々は今日も昨日と同じことを考えているという。これでは既に回答を知っている問題について考えているにすぎない。
しかし、最高のトレーダーを目指すならば、他の者とは異なる考え方を身につけなければならない。 「既成概念」にとらわれない発想である。
トレーダーとして、受動的ではなく能動的に行動しなければならない時がある。 熟練したトレーダーはマーケットにただ反応するのではなく、マーケットに反応させるのである。
換言すれば、可能な時には単独でマーケットを動かすのである。 他のマーケット参加者の動きや行動に左右されるトレーディング・アプローチは、所詮は追随者のものであり、熟練したトレーダーのものではない。
独自に発想し、確信をもって行動することが高水準のトレーディングにおいては必須であるが、これは自分自身の知識と信念に基づいて行動することによって初めて可能となる。
勘違いしないでほしい。 ある一定の範囲では、いわゆる「スマート・マネー」の動きに注意を払っていることは確かである。
それがチャートの基本である。私は、社内のトレーダーが何かをしようと判断したにもかかわらず、他者からの追認を得ることができなかったために行動できなかったという事例を多く見てきた。
しかし、自立したトレーダーが、自らのとるべき行動を決めたのならば、行動に移る前に他人の追認は必要ないのだ。
例えば、トレーダーがX株を40ドルで買うことを決断したとしよう。 株価は動き出す。 しかし、当初の計画通りに行動する代わりに、「X株は今40ドル1/8だ。
出来高が膨らんでくるのを待つべきかもしれない」とか、「買いを入れる前に、もう1/8ポイント値上がりするのを待とう」とか、「マーケット・メーカーが値を吊り上げてくるかどうか、
オファーのボリュームが減ってくるかを見てみよう」とか、「ゴールドマン・サックスがオファーを引き上げるかどうか、様子を見よう」とか、余計なことを考え始めるのである。
これらは、他者の動きを見てからでないと行動できないことへの言い訳にすぎない。
真に熟練したトレーダーは自らが他者の注視する出来高となるのである。 彼らは自らその1/8ポイントの上昇を作りだす買いを入れるのであり、ゴールドマン・サックスやその他のオファーで自らの決意が鈍ることを許さない。
彼らは自分が何をしたいのかを承知しており、自らの健全なアプローチがゴーサインを出したということに自信を持って行動に出るのである。
これが自立しているということだ。これが熟練しているということであり、幸せを感じるための鍵となるばかりでなく、利益を上げるための鍵でもある。
POINT
我々は、他者が注目するようなマーケットイベントを創り出す者になれと指導している。
大衆が「株価が40ドルになるまで買うのを待とう」と思っているならば、我々は「それならば株価を40ドル1/8に押し上げよう」とするのである。
換言すれば、「チャートを作りにいく」わけだ。これは真の熟練の技であり、実行できるようになるには長い歳月を要するかもしれない。
しかし、プロがどのように大衆を扱っているかを知ることは意味がある。
大衆を巻き込むことによって、自らの望む行動に火をつけるのが目的なのである。
常にそれをなすことはできないかもしれないが、熟練したトレーダーは、想像以上にそうした技を使っているのである。
DT07-06 ➡ 第6の秘密――すべての主要な株価指数は嘘をつく
真剣にマーケットに取り組んでいるプレーヤーは、ダウ工業株平均(DJIA)やS&P500指数(SPX)NASDAQ100指数(NASDAQ)といった主要な株価指数が裏で起こっていることを示す尺度としては
不正確なことが多いという事実を認識すべきである。
メディアによる日々の注目度が高いにもかかわらず、これは事実である。これらの認知度の高い株価指数に全く価値がないと言っているのではない。
しかし、熟練したトレーダー、特に短期のトレーダーは、これらの広範囲な株価指数が提供できる以上の、より鋭敏で正確な見取図を必要とすることを知っているのである。
S&P500指数が12パーセントの下落しか示していないのに、ニューヨーク証券取引所の全銘柄で見れば36パーセント下落していたというような事例もある。
あるいは、NASDAQ100指数は18パーセントの下落しか示していないのに、NASDAQ全銘柄では46パーセント下落していたというような事例もある。
テクニカルの経験則では、株価が20パーセント以上下落する時は大暴落の兆候である。ここに示した数値は、傍目にはバラ色の絵を見せながら、最悪の大暴落の瀬戸際にあることを明らかに示すものである。
これは主要な株価指数が必ずしも全体的なマーケットの状態を正しく表現するものではないことの証拠である。
これらの指数は想像以上に一般大衆を欺く。 そして、熟練したトレーダーはその嘘をあばくことに懸命なのである。
なぜ、株価指数は嘘をつくのか。それは株価指数がプロクター・ギャンブルやメルク、マイクロソフトやデル・コンピューターといった時価総額の大きな銘柄で占められているからである。
これらの値嵩株は多くの株価指数におけるウエイトがあまりにも高く、大幅に株価指数を歪めるのである。
熟練したトレーダーは、正しい読みをするためにはマーケットの「内側」に入り、必要とあらばレントゲン写真を撮るだけの用意がなければならない。表面ばかりを見ていても何の役にも立たない。
マーケットの本当の姿を正確に知ろうをするならば、頻繁に引き合いに出される株価指数だけに頼っていては駄目なのである。 トレーダーは、より深みを知らなければならない。
POINT
短い時には数分から、長い時には数日までの時間軸でポジションをとる短期のトレーダーは、株式市場全般で何が起こっているのかについて明確な見方を持つことが極めて重要である。
前述したように、主要な株価指数は正確な見取図を提供するものではないし、また提供できるものでもない。
そこで、株式市場の内部で何が生じているかを明らかにすることに照準を合わせたテクニカル指標を使うことにより、
有利な立場に立つのである。そのようなテクニカル指標の1つにニューヨーク証券取引所TICK指数(STICK)がある。
ニューヨーク証券取引所で取引されている全銘柄のうち、現在値が上昇している銘柄の数と下落している銘柄の数を計るものであり、場中の状況を測るためには優れた指標である。
例えば、TICKがプラス400であったとしよう。この場合、全銘柄のうち上昇している(買われている)銘柄数が下落している(売られている)銘柄数よりも400多いことを示している。
つまり、売りよりも買いのほうが圧倒的に多いということだ。 もし、TICKがマイナス400であれば、逆の事象が生じているわけである。
この指標の重要性は、以下の事例に端的に示されている。 例えば、ダウ工業株平均が120ポイント下落している(マイナス材料)が、TICKは着実に上昇しプラス600を上回ったとしよう。
この場合、「売り」と「買い」のどちらに傾斜をかけるべきだろうか。 我々の社内トレーダーであれば、ロング(買い)の機会を必死に探ることだろう。
テレビの高給取りのアナウンサーが株式市場の暴落を伝えていたとしても、自分の読みはバラ色の側面を見ているのである。これは熟練したトレーダーが株式市場を正確に読み、
結果として正確な判断につなげるための指標の一例である。
この他の指標としては、ニューヨーク証券取引所のTRIN指数(STRIN。 ARMS指数といったほうが通りがよいかもしれない)、S&P先物、
公益株指数、米国債などがある。これらの指標はすべて、熟練したトレーダーが自らの立場を有利にするための助けとなる。
深みを知るには、多くの者が会得することのできない熟練の技術が必要だ。 何が真実で何が嘘かを解読することができるトレーダーのみが正確なトレーディングの高みに達することができるのである。
我々は情報誌でこの類の情報を提供してはいるが、これは値段のつけようのない能力であり、何としてでも身につけるように努力しなければならない。
DT07-07 ➡ 第7の秘密―寄り付きの後に買いを入れるほうが望ましい
寄り付き前の売買の機会は増加してはいるが、熟練したトレーダーは、買いポジションを作るならば、通常は寄り付き後のほうが望ましいことを知っている。
寄り付きを待つことによって、株価がどの水準で始まるかを見ることとなり、これは多くの場合、より優れた判断を可能とするのである。
特に、相場環境が不安定になってきた場合には、より重要になってくる。 なぜならば、寄り付きと前日終値とのギャップ(上方にせよ、下方にせよ)は望まざる天罰となる可能性があるからである。
寄り付き前に注文を入れることは、こういったギャップの形成を助長するばかりでなく、午前中の高値か、それに近い水準での買いとなる確率を高めるものだ。
一瞬待って、株価がどの程度の水準で始まるかを見ることにより、そして初心者トレーダーがどちらのサイドに傾斜しているかを見ることにより、自らの買い水準に関する正確性を飛躍的に改善することができる。
また、我々の30分ギャップ・ルールに則れば、50セント以上のギャップをつけて寄り付く銘柄は買いである。
ギャップの形成の仕方によってアプローチは変わるものであり、寄り付きを待たずして、アプローチの変更を行うことはできないのである。
POINT
インスティネット(INCA)などの電子通信ネットワーク(ECN)へのアクセスの利便性が向上したことによって、寄り付き前及び大引け後の取引が一般個人にも可能となった。
ごく最近までは、これは力があり、豊かで、賢い者の特権であったが、今やExecutioner.comといった企業の提供するプロ仕様のトレーディング・システムによって一般的なものになっている。
それにもかかわらず、我々は寄り付き前の取引を控えるように勧めている。 寄り付きの前に買いを入れることが有利であることもあるが、たいていの場合、そこで現れる姿はまやかしである。
「場外」取引は頻繁に行われてはいる。 しかし、出来高が極めて少ないこと、相場操縦、合法的な安定操作など、初心者にとっては死を招く罠が多い。
総じて、何が真実であるかを確認してから行動することが最良の行動につながるのであり、それはゲームが本当に始まってからでないとわからないのだ。
ウォール街にプレゼントは落ちていないということを想起してほしい。
自分の実力以上のものを手に入れた場合には、最終的な真実が明らかになった時には「手にしていたくないものを手に入れた」ということなのである。
DT07-08 ➡ 第8の秘密―寄り付きの前に利食っても報われない
第7の秘密で述べたように、昨今の電子取引隆盛の時代においては、プロが行うように寄り付き前や大引後に売りを入れることができる。
Executioner.comのようなトレーディング・システムを使用することによって、寄り付きの数時間前でも大引の数時間後でもマーケットにアクセスできる。
そう遠くない未来に、すべての証券取引所で24時間取引が開始され、1日のどの時間帯で取引しようが、それが普通である時代が来るだろう。
しかし、これが現実のものとなるまでは、時間外に激しくは取引しないように、特に、寄り付き前に値が上がっている時には、寄り付き前に売ることは厳に慎むように社内のトレーダーには指導している。
寄り付き前に値が上がっている銘柄は寄り付き後に一段高となる傾向があるからである。
寄り付きまで、NASDAQのマーケット・メーカーは、その銘柄の本当の状況を明らかにしない。
彼らにとっては、そうする必要がないのである。それはゲームが始まる前に手のうちを見せるようなものであろう。
私の経験を述べれば、魅力的に見える価格で他者に先んじて保有銘柄を売ることができた時には、その売り値は全くもって魅力的ではなかったのである。
ウォール街に贈り物は落ちていないということを常に肝に銘じておかねばならない。
このポイントについてもう少し詳しく見てみよう。 例えば、前日の終値が20ドルであったW株を100株保有しているとしよう。
寄り付きの30分ほど前に、CNBCとNASDAQレベルIIシステムのスイッチを入れる。 複数のマーケット・メーカーによってW株の気配値が1.25ドル上昇しているのを見て、とりあえずは安心する。
レベルIIのスクリーン上ではメリルリンチが21.25ドルのビッドを出している。 それを叩けば1.25ドル分の利益、そう、1250ドルの儲けを確定できる。 「マウスを2回クリックするだけで1250ドルなら悪くはない。
人生もまんざら捨てたものではないな」と思うかもしれない。 確かに、このシナリオでも人生は素晴らしいが、寄り付き後まで待てば人生はさらに素晴らしくなるのである。
寄り付き後、数分待てば、統計的にはより高値で売ることができる可能性が高い。 もちろん、常にそうであるとは限らないが、その可能性が高いのである。
POINT
熟練したトレーダーは、たいていの場合、寄り付き前にビッドが上昇している銘柄は寄り付き後に一段高となることを知っている。
彼らは初心者が寄り付き前に買い注文を入れる傾向があることを認識しており、これらの累積した買い注文はしばしば上昇圧力を強める。
寄り付き前にS&P先物で見たマーケットの基調が強ければ、我々は社内トレーダーに向かって次のように叫ぶことだろう。 「よく聞けよ。
マーケットの基調は強いし、昨日買ったW株は寄り付き前に順調に上がっている。 W株を買いたがっている欲の皮の突っ張った初心者が沢山いて、彼らはそれだけの値段を払うつもりでいるということだ。
これが、マーケット・メーカーが価格を吊り上げている理由だ。 彼らが初心者にそれだけのお金を使わせたがっているのだから、我々もそれに従おう。
間違っても寄り付き前にW株を売ろうなんて気を起こしてはいけない。 それは必要以上に安く売ることになる。 よりよい価格で売れるだけの初心者中心の買い注文が入っているんだ」。
寄り付き前に値が吊り上がっていて含み益がある銘柄について、かなり大きなポジションを持っている社内トレーダーがいる場合には、寄り付き前にポジションの半分の売り注文を出させている。
残りのポジションをマーケットについて行かせるためである。 これは寄り付き前の値上がりが急速にしぼんでいくような時に適したアプローチである。
2つの選択肢のどちらを選択すべきか悩んだ時には、両方をやってみることである。 答えは、通常、その真ん中にある。
DT07-09 ➡ 第9の秘密―東部標準時の11時25分から14時15分は最悪の時間帯
多くのデイトレーダーは、1日の間に勝つ確率が急激に低下する特定の時間帯があることを知らない。 これらの時間帯にはかなり長時間にわたるものもある。
そのような時間帯の1つに、東部標準時の11時25分から14時15分がある。 我々はこの3時間を「白昼の無風地帯」と呼ぶ。
この時間帯には株価が顕著に方向感を失う傾向がある。 トレーダーが往復ビンタを浴びる時間帯なのである。 突っかけたり、短命に終わる上昇がよく起こり、瞬間的な下落なども頻繁に生じる。
逆に言えば、トレーダーに最高の収益機会を与えてくれるのは午前の前半であり、午後の後半なのである。
これが、我々が社内トレーダーに正午前後では小銭で利鞘を稼ぐ程度に取引を少なくするように指導している理由である。
この時間帯の取引はアクティブなデイトレーダーだけに限定されるべきものである。 1日の損失の50パーセント以上を減らしたいのならば、この予測不能な時間帯を避けるだけでよい。
ぜひ、試してみてほしい。
POINT
収益を上げる可能性が最も高いのは午前の前半、午後の後半であることを熟練したトレーダーは知っている。
それを知っていながら彼らは遊び半分でそこかしこで手を出すのであるが、「白昼の無風地帯」の時間帯だけはアプローチを変えるべきであると認識している。
なぜ、11時25分から14時15分の間は、それほどにも取引がなく、何も生じることがないのだろうか。 それはウォール街のほとんどが昼食をとりに出かける時間であり、相場を部下に任せる時間帯だからである。
部下たちは大きくポジションをとる権限もなく、材料を持って相場をつくる権限もない。 上司たちが昼食から帰ってくるまでは株価の方向性も生まれないのである。
この事実をセミナーなどで指摘すると、必ず返ってくる質問がある。 「11時25分から2時15分は昼食にしては長すぎないか。 本当にそれは昼食だからなのか」と。
これに対する私の答えは常に同じである。 「マーケット・メーカーの連中を見たなら、その質問は出ないだろう。 2時15分に帰るといったら、本当に彼らはその時間に帰ってくるのだ。
彼らの昼食は豪勢で、彼らも豪勢なのである」。
この傾向は昨今ではあまり見かけられなくなってきてはいるが、ウォール街のパワー・トレーダーたちが太っていることは知られている。その理由がわかっただろう。
DT07-10 ➡ 第10の秘密夜明け前が一番暗い
これから、暗い秘密を明らかにしよう。 我々を信奉する者でも想像がつかないものである。 ある意味で、それは告白でもある。 すべてのアクティブなトレーダーに対し、非常に重要なメッセージである。
毎日の情報誌で提供する我々の戦略が売り一辺倒になるたびに、株式相場は上昇に転じる。 そう、上昇に転じるのである。
しかも、かなり急激に上昇するのである。 と言っても、多くの読者にとって、我々の秘密は少しも慰めにならないであろう。
実際、この発見を恥ずかしく思った時期もあった。 今日では、そのような羞恥心を感じないほどの鉄面皮になったか、あるいは単純に成長したわけだ。 いずれにしても、飛んでくる質問は想像がつく。
なぜ、我々の知識と才能と技術をもってしても、売り一辺倒に思える時にマーケット・タイミングが間違っていることが多いのか。
実際、その答えは極めて単純なものである。 我々の情報誌が売りの戦略ばかりを提供するということは、マーケットがどれほど悲観的になってしまったかの証なのである。
ここで、「なる(become)」という言葉は物事が実施されるという意味であることに注目してほしい。 我々が売りのみを推奨する時には、マーケットの状況がこれから悪くなっていくわけではない。
我々が売りを推奨した時には、既にマーケットの状況は悪くなっていたのである。換言すれば、夜明け前が一番暗いのである。
下落局面が長く続くと、状況があまりにも悪く見え、買い参入できそうな銘柄が1つもないように感じられる時がくる。
そして、その時こそ熟練したトレーダーが夜明けの曙、救いの上昇が近いと感じる時なのである。この事実を紹介したのは、「夜明け前が一番暗い」という概念を知っておくことが重要だからである。
これは熟練したトレーダーならば誰でも知っていることであり、これを知っていることで常に用心深くいられるようになる。これは1つの考え方にとらわれ過ぎることを防いでくれる。
ご存知の通り、マーケットでは1つのサイドにすべてを賭けることは危険である可能性が高い。状況が極めて明らかに見える時でも、熟練したトレーダーは一片の不確実性を意識しているのである。
POINT
すべてが極めて確実であるように見える時でも、それが極めて不確実な状況であることを熟練したトレーダーは知っている。
状況があまりにも一方に偏り過ぎていると思われる時には、熟練したトレーダーは反対サイドを検討するのである。
マーケットは大衆が体験していることの反映というにすぎない。 大衆が耐えがたい苦痛と苦悶を経験した後は、彼らは何も、文字通り何も魅力的に感じることができないのである。
しかし、奇妙なことに、それは状況がまさに好転しようとする時なのだ。 マーケットの醜さ、足場の悪さは、既に売った者によって創り出されたものなのである。この点を理解してほしい。
「既に売った」である。 いったん売りが出尽くしてしまうと、つまり暗さが峠を越えると、買いの循環はすぐそこまで迫ってきているのである。
いつも、夜明け前が一番暗いのだ。 状況が最悪に感じられる時には、暗さも終盤である可能性が高い。
DT07-11 ➡ 第11の秘密―ウォール街のカリスマは常に間違っている
かつて、ウォール街のトップ・ストラテジストたちが金融相場の終焉を唱えた時期があった。 その時期、プロが暗黒と破滅を大声で叫んだため、最も潤っていたマーケットの支持者でさえも白髪が目立つようになってしまった。
この時、マーケットは暗黒と破滅の予言を鼻で笑っているようであった。 今となっては、これらのプロは、なぜ自分たちの主張のタイミングが最悪だったのか理解しているだろう。
おそらく、第10の秘密で述べた「夜明け前が一番暗い」ということを理解していれば、何が問題だったのかわかるはずである。
ここで、なぜ、これらのプロが同時に「劇場が火事だ!」と叫び出した時に、マーケットが反転せざるを得ないのかを明らかにすることにしよう。
ウォール街のマーケットストラテジストは主要な顧客に彼らの見方を前もって提示する責務がある。
実際、予想される事態を前にほとんどの顧客が売りきっているか、少なくともポジションを軽くしているかを確認してからでないと、責任のあるストラテジストは一般大衆に向かってマーケットに関する弱気な見方を示すことはない。
換言すれば、これらのカリスマは顧客が暗黒に対する備えができているとの感触を得た後、一般大衆に対して弱気な見方を示すのである。 常に、マーケットが彼らの見方に合わないのも不思議ではあるまい。
大口の顧客(投資信託やヘッジファンドなど)からの売りは既に出尽くしているのである。 誰が売り手として残っているのだろうか。 私の祖父だけかもしれない。
もしかしたら、こわごわ2つの投資信託を保有している、私のオフィスの入っているビルの心優しい管理人かもしれない。
しかし、彼らには状況が理解できないだろう。 私の祖父や勤勉な管理人はウォール街のカリスマが言うことになど耳を傾けないだろうし、そのような人種が存在していることすら知らないだろう。
彼らは資金をマーケットに投入したままなのである。 カリスマたちは気づいているのだろうか。警戒しなければならないのは、彼らの顧客なのだということを。 恐らく気づいていないに違いない。
これが、カリスマたちをマーケットが笑い飛ばしている理由である。 聞こえるだろうか。 まだ、笑い声が聞こえるではないか。
POINT
ウォール街で最も注目されているアナリストが悪材料を探し始めたら、反転が近いということを熟練したトレーダーは知っている。
この逆張りの発想でS&P先物と株価指数オプションを使って莫大な利益を上げている者もいる。 初心者と同様にプロのアナリストも恐怖と欲望の影響を受けるのである。
プロのアナリストがそれを認めたがらないだけである。これが、彼らが間違った時にマーケットが彼らを笑い飛ばす理由である。ウォール街全体が一方に偏った見方をした時には、反転の可能性を探ることを学んでほしい。
プロのアナリストが間違った時には反対方向への動きは急激なものとなる。 ビッグプレーヤーが慌てて動く時にはマーケットの動きは非常に大きなものとなる。
DT07-12 ➡ 第12の秘密―決算発表に基づく取引は初心者のすること
これに関しては、私は何千回でも繰り返し言おう。 決算発表は株価を動かさない。
株価を動かすのは利益予想である。この点をあまりにも多くの初心者が誤解しており、結果、好決算を受けて株価が下落したり、悪い決算にもかかわらず株価が上昇したりするのを頻繁に目の当たりにして混乱するのである。
熟練したトレーダーなら、マーケットには材料を織り込む機能があるという重要なポイントを知っている。
マーケットは、決算発表の内容がどのようなものになるかを予想するのである。 利益増が予想されるならば決算発表を前に株価は上昇し、逆に、
利益減が予想されるならば決算発表を前に株価は下落するのである。
決算発表を前に急激に上昇した銘柄は、いかに好決算であっても決算が発表された時点で下落に転じる可能性が非常に高い。
なぜ、そのようなことが起こるのだろうか。 好決算であることは予想されていたことであり、予想を上回る要素がないからである。
もちろん、決算発表を前に株価が上昇していた場合には、決算内容が悪ければ株価は急落する。 この逆のシナリオもまた真である。
POINT
熟練したトレーダーは、常に、好材料で売る機会を狙っている。 企業の決算発表といった事実は大衆のためのものだからである。
これらの発表が長く待たれていた事実は、ほとんどの場合、大衆を一方向に動かす材料となる。
決して大衆と行動をともにすることのない熟練したトレーダーが好材料で売る理由はここにある。 事前に好材料であることが予想されていた場合には特にそうである。
予想が形成されている時期に買い、事実を見て買う者に売りつけるというのが真に熟練したトレーダーの行動原理である。 このアプローチは必ずしも利益を最大化するものではないが、
前述したように、ホームラン狙いは敗者のすることである。
DT07-13 ➡ 第13の秘密買い上がるほうが確率が高い
我々のアプローチに関して最も頻繁に尋ねられる質問の1つに、「なぜ、貴社のトレーディング戦略のほとんどが現在値よりも高い水準での買いを推奨するものなのか?」というものがある。
あるいは、「なぜ現在値で買わないのか?そのほうが安上がりではないか」というのもある。この質問については2段階に分けて答えようと思う。
第1に、我々が2つのトレーディング形態に特化していることを明確に理解してもらわなければならない。 我々は数日間の株価上昇がありそうな銘柄発掘に注力するスウィング・トレーダーである。
我々はまた、瞬間的な株価上昇がありそうな銘柄発掘に注力するプロのデイトレーダーでもある。 そのような短期の時間軸では、発射台に乗ったまま数日間、数週間、あるいは数カ月間動かないリスクを避けなければならない。
結果として、その場合は、流れに飛び乗る前に株価が望ましい方向に動き出すことを確認する必要がある。 株価が売り手を蹴散らすだけの力強さを見せることができないなら、我々の検討の対象外なのである。
あらゆる銘柄は上昇しなければ価値がないのである。
第2点は、また同様に重要なポイントであるが、力強い動きを見せている銘柄を買うという我々のアプローチが、ストップロスを除く、他のいかなる手法よりも我々の資金を守るものであったということである。
我々が興味を持ったにもかかわらず、我々の買い水準を上回らず、2ドルや3ドル、ひどい時には4ドルも下落して引けるといった事例は数えようがないほどある。
初心者がするように寄り付き直後に買うという習慣が我々にあったならば、現在ほどは利益を上げることはできなかったと、私は自信をもって言える。
我々の買い目標値に達することなく下落する銘柄があった場合に、我々が間違ったという者もいる。 しかし、こういった事象が生じた時には、我々がまさに正しかったと認識している。
我々の買い推奨の意味するところは、「X株を買い推奨するが、それはこの価格を上回った場合のみである」ということなのだ。
端的に言えば、「現在値よりも高い水準での買い」戦略によって、無駄な損失を被らずにすむということだ。 「いかに」買うかを知ることが「何を」買うかと同様に重要なのである。
POINT
1日から5日間の値動きを狙いに行く熟練したスウィングトレーダーの典型的な行動は前日の高値を越えた銘柄を買いに行くというものである。
また、熟練したデイトレーダーは2分足や5分足あるいは15分足のバーチャートの高値を越えた銘柄を買おうとする。
熟練したデイトレーダーは底値を拾えることができればより利益が膨らむことを知ってはいるが、恒常的に底値を拾うことができるというのは嘘だということを厳しい体験を通じて、身をもって知っているのである。
底値を拾えると思っているスーパーマン気どりの輩は無駄な努力によって損失を膨らませておくがよい。 熟練したデイトレーダーは株価の航路が明らかとなる兆候を待つのみである。
その兆候とは、前述した通り、対象となる前の期間の高値を上回ることである。 それを成し遂げるだけの力がある場合に限って、熟練したトレーダーは自分の資産をリスクにさらすことができるのである。
DT07-14 ➡ 第14の秘密―安値で買って高値で売る手法はデイトレードには向かない
マーケットに関して言えば、心理的に実行が容易な行為は、ほとんどの場合、不適切な行動であるという事実は驚きである。 私は、トレーディング以外では、そのようなことを実感したことはない。
だからこそトレーディングで成功することが難しいのであろう。
広く一般に受け入れられている「安値で買って高値で売る」という概念を考えてみよう。 何十年もの間、このアプローチはマーケットにおける正しい投資行動の基本として薦められてきた。
安値で買って、高値で売る。 極めて単純である。 また、極めて基本的なことだ。 極めて明快であり、明らかに真実である。 しかし同時に、たいていの場合、ひどく間違っているのである。
典型的には、安値で買うことは望ましい方向(上昇)に向かっているのではなく、下落途上にある銘柄を買うことになるからである。
この概念について少しでも考えてみれば、これがいかに馬鹿げた行為であるかがわかる。 安値で買うためには、下落する銘柄を買うことに集中しなければならない。
他方で、我々の本当の望みは株価が上昇することである。 支離滅裂ではないか。
行き先が逆の列車に少しでも乗ろうと思うだろうか。 西に行くためにはまず東へ向かわなければならないなんて、6歳の子供でも、とてつもない時間の浪費だとわかるだろう。
特に、直接東へ向かうことができるならばなおさらである。
なぜ、より多くの人々が同じような発想をもって、トレーディングや投資に向かうことができないのだろうか。 なぜ、既に我々が望んでいる方向に動いている、つまり上昇している銘柄を買わないのだろうか。
それは、安値で買うことが我々の本能に合っているからである。 快適な行動なのである。 それは正しそうであるし、それが実行できれば気分もよいのである。
結局のところ、物を安く買うことは米国流なのだろう。確かにそうではあるが、ことマーケットに関しては、それは時間とお金と収益機会の浪費につながる。
話を単純化しているかもしれないが、単純化し過ぎているというほどでもないだろう。 上昇する力を見せている銘柄に集中するほうが賢いトレーディングであり、賢い投資なのである。
我々が望まない行動を見せている銘柄に集中し、我々が望む行動をとることを期待するなどということは、憶測やギャンブル以外の何物でもないのである。
POINT
熟練したトレーダーは皆、そして特にデイトレーダーは、株価は上昇しなければ価値がないことを知っている。
いかに優れた短期のトレーダーでも、時間的な猶予はない。 ポジションをとる時には、ある程度、比較的短い時間の間に目標株価に到達できる確信がなければならない。
投資家にとって時間は友人であるが、熟練した短期トレーダーにとって時間は宿敵である。
下落している銘柄が上昇に転じる可能性はあるが、熟練したトレーダーは株価が上昇するのを待ってから全精力を傾けてポジションをとる。
これは、彼らが買い遅れることを意味するのではなく、彼らがより賢く買っている証なのだ。 彼らは憶測やギャンブルには興味がないのである。
既に目的地に向かっている列車に飛び乗るほうが、どこへ行くかわからない列車に乗って最終的には目的地へ行くことを望むよりもはるかに賢い行動である。
DT07-15 ➡ 第15の秘密次に何が起こるかを知ることが利益をもたらす
マーケットに関するマクロ(中期から長期)の視点はデイトレーダーの世界にはほとんど関係ないという誤った認識を、多くのデイトレーダーが持っているようである。
確かに、マクロの動向は投資家に与えるほどの影響をデイトレーダーに与えるものではないが、全く重要ではないとみなすのは間違いである。
マクロからミクロへのアプローチは非常に知的な短期の戦略を構築する一助となることを忘れてはならない。
例えば、マーケット全般に関する見方が、いったんは調整局面を迎えるものの、その後は輝きを取り戻す可能性が高いというものであったとしよう。
そして、仮にこの見方が正しかった場合に、特定の業種が最も敏感に反応するという結論を得ていたとしよう。
この場合、デイトレーダーとしては環境が好転した場合にとり得る行動のリストを作成し、その業種に注意を集中する必要がある。
トレーディングで勝つためには、目の前で生じている事象を完全に把握する能力が必要である。 目の前で生じている事象から利益を上げる方法を知っていることが最低限必要なことであるのは疑いの余地がない。
しかし、勝者の中でも誰に対する報酬がもっとも大きいかといえば、それは、今後何が起こり得るのかという発想のもとに戦略を立てることができる者である。
マクロの視点から次に何が起こるかを予想できる者は巨額の利益を上げることができる。 最も優秀なトレーダーは常に以下の2つの質問を自らに投げかけている。
1)目の前で生じている事象からいかに利益を上げるか。
2)今後、生じ得る事象に対していかに準備をするか。
アーリーバード
最初の質問(ミクロの部分)は日々の堅実な利益をもたらすものである。 しかし、大幅な利益は常に第2の質問によりもたらされる。
2番めの質問に対する正しい答えは早い段階でのポジション作りを可能にする。 餌にありつけるのは早起き鳥なのである。 もちろん、我々の課題は餌ではなく、鳥になることだ。
POINT
トレーディングに関して、我々は2つの戦略をとるように常に指導してきた。 1つめは、健康な生活を送るための糧を得ること、そして2つめは富を築くことである。
ポジショントレードやスウィングトレードは富を築くことを主眼においたものである。 他方、デイトレードは日々の生活の糧を得るものである。
両方の取引スタイルに熟練したトレーダーは決して金銭的に困ることはない。